行政法研究者声明 公表


行政法研究者有志による声明「9.4辺野古最高裁判決および国土交通大臣の代執行手続着手を憂う」を公表しました

 声明


9.4辺野古最高裁判決および国土交通大臣の代執行手続着手を憂慮する


2023 年 9 月27日  

行政法研究者有志一同

 国土交通大臣(以下「国交大臣」)は、本年(2023年)9月19日、地方自治法第245条の8第1項に基づき代執行手続に着手し、防衛省沖縄防衛局(以下「沖防局」)がしていた、辺野古沖・大浦湾周辺海域の埋立てにかかる軟弱地盤改良工事のための埋立地用途変更・設計概要変更承認申請(以下「本件承認申請」)を承認するよう沖縄県知事(以下「知事」)に勧告した(以下「本件勧告」)。本件勧告は、本年9月4日に最高裁判所(以下「最高裁」)が、本件変更承認申請につき知事が2021年11月25日にした設計概要変更不承認処分(以下「本件不承認処分」)について、国交大臣が行った本件承認申請の承認を求める是正の指示(以下「本件是正の指示」)を適法とする判決(以下「本件判決」)を受けてなされたものである。しかし、本件判決の理由は、地方自治の本旨を理解しない不合理極まりないものであり、本件判決により本件是正の指示が適法であることが確定したとして、国交大臣が代執行手続に着手したこと、および、上記の勧告、さらには今後発出すると予想される指示に従って、知事が本件承認申請を承認することは、自治権保障の実効化のために制度設計されている地方自治法の関与制度の趣旨に沿わない、あるいは、関与制度の形骸化を助長するものである。

 第一に、本件判決は、是正の指示と裁定的関与としての裁決といった本来別個の制度であるはずの2つの国の関与の制度の混同に基づくもので説得力に欠け、それどころか、地方自治の保障の観点からすると有害だからである。

本件是正の指示は、本件承認申請につき、公有水面埋立法第42条第3項(第13条ノ2第1項・第2項準用)に定める変更承認の要件を充足しないとしてされた本件不承認処分を違法と認定してされたものであるところ、最高裁は、本件不承認処分が前記条項に違反してなされたものであるか否かを審査することなく、沖防局がした審査請求に基づいて2022年4月8日に国交大臣がした本件不承認処分の取消裁決の拘束力を根拠にして、上記の認定をした。是正の指示と取消裁決はそれぞれ内容および法的効果の異なる制度であり、とりわけ、是正の指示には、取消裁決と異なり、関与取消訴訟といった独立した司法審査制度が用意されていることに照らせば、是正の指示の審理および適否の判断については取消裁決の拘束力は及ぶべくもない。したがって、取消裁決の拘束力を理由として是正の指示の適法性の実質審査権を裁判所が放棄することは許されないはずである。この理に反しそれを許容する本件判決は、関与取消訴訟における司法審査の制度趣旨(「地方公共団体の長本来の地位の自主独立の尊重と、国の法定受託事務に係る適正の確保との間の調和を図る」〔本件原審・福岡高等裁判所那覇支部令和5年3月16日判決〕)を蔑ろにするものである。

 第二に、本件判決のように是正の指示の取消請求を棄却する最高裁の判決が確定した場合であっても、都道府県知事が是正の指示に従った法定受託事務の処理を行わないことは、代執行手続の存在に照らせば、地方自治法上直ちには違法とは評価されず、かつ、本件のように知事のした法定受託事務の処理の実質的な適法性が最高裁において最終的に否認されていない場合に知事がこの機会を活用しないことは代執行手続の存在を形骸化することにもなりかねないからである。

 そもそも代執行手続において法定受託事務の管理・執行の違法または不作為のみならず、「他の方法によつてその是正を図ることが困難である(こと)」および「放置することにより著しく公益を害することが明らかであるとき」といった要件が加重されているのは、憲法が保障する地方自治の本旨に基いて実体法的にも手続法的にも地方公共団体の自治権を手厚く保護する趣旨にでたものでもある。仮に本件のように最高裁の判決により是正の指示が適法であることが確定したとしても、国と地方公共団体とが対等の関係にあることに照らして、最終局面まで地方公共団体がそれに従わずに、地域的な特性を考慮した自主的な判断を行う余地を認めているのである。

したがって、最終的には代執行手続において予定されている裁判所の審理に委ねられている以上、知事は代執行手続、とりわけ代執行訴訟において本件不承認処分が適法である旨を主張できるのであり、この機会は活かされるべきである。

 なお、本件判決によって知事が承認するよう義務付けられたものと解する向きも一部に見られるが、そのような理解は、本件判決がたんに本件是正の指示の取消請求を棄却したものにすぎず、承認そのものを義務付ける法的効果を有しないこと、さらに、上記の通り、是正の指示の関与取消訴訟とは別に独立した司法審査の機会を保障している代執行手続が存在していることに照らせば、不正確の謗りを免れないのであって、本件判決が確定した後においても知事が承認を行わないことは、地方自治法上ただちに違法の評価を受けるわけではなく、むしろ法がその可能性を認めていることが広く認識されるべきである。

 私たちは、国土交通大臣に対しては、上記の問題点を孕む本件判決に依拠することなく、憲法の保障する地方自治の本旨や地方自治法の定める原理原則に立ち返り、ただちに代執行手続を中止し、沖縄県との対話によって紛争の解決を図ることを求めるとともに、沖縄県および知事には、辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票(2019年2月24日実施)で示された県民の意思を尊重する立場を引き続き堅持し、仮に代執行手続が続行されたときは、自治の担い手としてこれに正面から向き合うことを切に願うものである。



呼びかけ人 *50 音順

大田 直史    (龍谷大学教授)    岡田 正則 (早稲田大学教授) 

紙野 健二   (名古屋大学名誉教授)    木佐 茂男 (北海道大学名誉教授・九州大学名誉教授

榊原 秀訓     (南山大学教授)     白藤 博行 (専修大学名誉教授)

武田 真一郎 (成蹊大学教授)    徳田 博人 (琉球大学教授)

人見 剛       (早稲田大学教授)    本多 滝夫 (龍谷大学教授)

前田 定孝    (三重大学准教授)    山田 健吾 (専修大学教授)

亘理 格       (中央大学教授)

呼びかけ人 13人

賛同者 *50音順

赤間 聡(高知大学准教授) 荒木 修(関西大学教授) 李 斗領(立正大学教授) 石黒 匡人(日本医療大学教授) 石崎 誠也(高岡法科大学教授) 石塚 武志(龍谷大学准教授) 和泉田 保一(山形大学准教授) 礒野 弥生(東京経済大学名誉教授) 市橋 克哉(名古屋経済大学特任教授) 稲葉 一将(名古屋大学教授) 井上 禎男(琉球大学教授) 岩垣 真人(奈良県立大学准教授) 岩崎  恭彦(三重大学教授) 氏家 裕順(平成国際大学准教授) 大沢 光(青山学院大学教授) 大津 浩(明治大学教授) 大西 有二(北海学園大学教授) 大貫 裕之(中央大学教授) 岡崎 勝彦(島根大学名誉教授) 岡田 雅夫(岡山大学名誉教授) 長内 祐樹(金沢大学教授) 折登 美紀(福岡大学教授) 梶 哲教(大阪学院大学准教授) 門脇 美恵(広島修道大学教授) 北見 宏介(名城大学教授) 川合 敏樹(国学院大学教授) 小島 延夫(元 早稲田大学教授・弁護士) 児玉 弘(福岡大学准教授) 後藤 智(富山国際大学客員教授) 小林 博志(元 西南学院大学教授) 駒林 良則(立命館大学教授) 小山 正善(岡山大学名誉教授) 蔡 秀卿(立命館大学教授) 斎藤 浩(弁護士) 島田 茂(甲南大学名誉教授・横浜市立大学名誉教授) 島村 健(神戸大学教授) 下山 憲治(早稲田大学教授) 庄村 勇人(名城大学教授) 杉原 丈史(愛知学院大学教授) 鈴木 眞澄(龍谷大学名誉教授) 竹内 俊子(広島修道大学名誉教授) 恒川 隆生(静岡大学名誉教授) 寺田 友子(桃山学院大学名誉教授) 渡名喜庸安(琉球大学名誉教授) 豊島 明子(南山大学教授) 仲地 博(沖縄大学名誉教授) 西田 幸介(法政大学教授) 野呂 充(大阪大学教授) 萩原 聡央(名古屋経済大学教授) 畠山 武道(北海道大学名誉教授) 浜川 清(法政大学名誉教授) 原島 良成(中央大学教授) 晴山 一穂(専修大学名誉教授・福島大学名誉教授) 平川 英子(駒沢大学教授) 平田 和一(専修大学名誉教授) 府川 繭子(青山学院大学准教授) 福家 俊朗(名古屋大学名誉教授) 福井 秀夫(政策研究大学院大学教授) 藤枝 律子(元 三重短期大学教授) 洞澤 秀雄(中央大学教授) 本田 博利(元 愛媛大学教授) 松本 未希子(桃山学院大学専任講師) 見上 崇洋(立命館大学名誉教授) 水野 泰孝(早稲田大学准教授) 三野 靖(香川大学教授) 村上 博(広島修道大学名誉教授) 安本 典夫(立命館大学名誉教授) 由喜門 眞治(元 関西大学教授) 横田 光平(同志社大学教授) 横山 信二(広島大学名誉教授) 

10月14日正午現在
賛同者 91人(公表70人)


 

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コメント

  1.  辺野古埋立設計概要変更承認申請とは、辺野古埋立工事を進めている防衛省沖縄防衛局が、埋立区域の大浦湾に軟弱地盤があったとして工事の変更について沖県知事に承認を求めているものです。沖縄県知事は、2021年11月25日に工事を確実に遂行するためには必要なはずの重要な地点の調査がされず、災害防止の配慮が不十分であることなどを理由に不承認処分としました。これを不服とする沖縄防衛局は、2018年の承認撤回処分の時と同じように、審査請求を行い、これを受けて2022年4月8日に国土交通大臣は、やはり前回と同様に不承認処分を取り消す裁決を下しましたが、今回は、国土交通大臣は、さらに是正の勧告(4月8日)と是正の指示(4月28日)を相次いで発出し、承認処分をするよう沖縄県知事に迫ってきました。
     沖縄県知事は、取消裁決と是正の指示それぞれについて違法な関与として関与取消訴訟を提起し、原審敗訴の後に上告をしましたが、残念ながら、取消裁決の取消訴訟については本年8月24日に上告受理申立ての不受理の決定が、次いで、指示取消訴訟についてはこの9月4日に上告棄却の判決が下されました。参照 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92331
     取消裁決の関与取消訴訟が不適法である旨の決定は、それ自体問題ではありますが、すでに撤回処分の取消裁決について下された2020年3月26日の最高裁判決との関係では想定された判断でした。これに対して、取消裁決の拘束力にかからしめて、不承認処分自体の違法性を審査することなく是正の指示を適法性を認定した指示取消訴訟の判決は、関与取消訴訟における司法審査の制度趣旨を蔑ろにするものであり、行政法研究者として看過できないものです。ところが、国土交通大臣は、9月4日判決により是正の指示が適法であることが確定したとして、上記の通り勧告を発出しました。このような経緯の下で、国土交通大臣が代執行手続の着手したこと、そして、今後発出されると予想される指示に従って沖縄県知事が沖縄防衛局の申請を承認をすることは、自治権の保障するために制度設計されている地方自治法の関与制度の趣旨に沿わない、あるいは、関与制度の形骸化を助長するものだと評価せざるを得ません。私たち行政法研究者にとって憂慮の念に堪えない事態です。
     そこで、添付文書の通り、国土交通大臣に対しては、本件判決に依拠することなく、憲法の保障する地方自治の本旨や地方自治法の定める原理原則に立ち返り、代執行手続を中止すること、沖縄県・知事には、県民投票の結果を尊重する立場を堅持し、代執行手続が続行されたときは自治の担い手としてこれに正面から向き合うよう求める声明を作成し、公表することにしました

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